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釦録

萌えメモ的な何か
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Dear my Future ③
なんか長引きそうなので途中アップ。

【諸注意】
・以前書いた記憶喪失話の続きの続きです。
・書く気のなかったはずの小松くんとココさんの会話シーンです。
・ま…だ終わらない\(^0^)/





トリコさんが戻ったのは、ボクが大量のネオトマトの皮を湯むきしている時だった。

扉の開く音にボクが振り返ると、ペンギンはぺたぺたと音を立てて玄関の方へ歩いていく所だった。その直後、トリコさんが「帰ったぞー、ユン!」と大きな声を上げるのが聞こえた。あの子、ユンって言うんだ。ユンユンって鳴くからなあ、と、ボクはそのネーミングの安易さにくすりと笑う。

ほどなくして、トリコさんの大きな身体がキッチンに姿を見せた。トリコさんは鼻をひくひくさせると、目尻とよだれを垂らし始めた。すごい勢いだ。
「んまそーな匂いだなあ、小松ぅー」
「よだれ凄いですよ、トリコさん…」
トリコさんはしきりに味見をしたがったけれど、料理人としてはやっぱり出来上がってから食べて欲しい。なんとか制止すると、「ちぇー」だの「小松のケチー」だの理不尽なことを言いながらも手伝ってくれた。トリコさんの手は、包丁を使わずともナイフのように皮を剥いたり刻んだりすることができた。手品みたいだ。
ボクはトリコさんと共に大量の玉ねぎをみじん切りにする。横目でトリコさんの方を見ると、やっぱり屈託のない笑顔をしていた。朝と同じように、ボクはその笑顔を見ると泣きたくなってしまう。

いや、違う、これは玉ねぎのせいだ。
目を手の甲でごしごしとこする。玉ねぎの汁が目に入って余計に痛くなった。

ボクの中では、ココさんの声がいまだに反響し続けていたけれども。
でもこの涙は玉ねぎのせいなんだ。そう思いたい。





ココさんの語るトリコさんは、ボクがトリコさんに聞いた以上に、ボクに対して過保護で、献身的で、ボクの事をまるで宝物のように扱っていた。

「なんで…そんな、信じられません。」
「そう言われても、これは事実だからね。」

淹れた紅茶はすっかり冷めてしまっていた。色も香りも素晴らしかったから、いい茶葉だったのだろう。鮮やかな紅が高価そうな茶器に映えた。でもボクはほとんど手をつけることができなかった。お茶を飲みながら和やかに聞けるような話じゃなかったのだ。

「だって、トリコさんはすごい美食屋で、世間的にも有名で評価も高くて、」
自分の声が震えているのがわかった。

「見るからにカリスマって感じだし、強そうだし、」
顔を上げてココさんを見ることができない。

「ボクなんかただのレストランのシェフで、ただの従業員で、」
手も震えていることに他人事のように気付く。

「なにか特別な才能があるとも思えないし」
紅茶のカップの水面に小さな波が立った。

「それどころか記憶もなくして」
こんなこと言いたくない、けど。


「とっくに見捨てられて、当然だったのに。」


「小松くん」
ココさんの声に、思わず顔を上げた。ボクの名を呼ぶその声に乗った響きが予想外のものだったから。
それは呆れでも慰めでも同情でもなく、怒りだった。

「本気でそんなこと思っているのかい?」

表情を見て驚いた。この人は、本当に怒っている。どうしてだろう、今の発言のどこにココさんが怒るのだろう。思い当たることがなく、ボクの身体も思考も混乱で停止してしまった。ココさんの端正な顔が怒りに歪む様子は迫力があった。それに気圧されたのもあってボクは動くことができなかった。

「ボクは…ボク達は、小松くんが記憶を失くした時、とても後悔した。
あの時ああしていれば、こうしていれば、君は無事でいられただろう。そういうことをたくさん仮定した。トリコと喧嘩もした。なぜこうしなかった、ああしなかった、お前は注意が足りない、そういうこともたくさん言った。

でもそれ以上に、ボク達は君が一命をとりとめてくれたことに感謝した。

ボク達は、君には想像もつかないだろうけど、人が呆気なく死ぬ所をたくさん見てきた。
そのことに慣れてしまうくらいにはね。
自分の死を予見しても動揺しないと思うよ、少なくともボクは。でも君に対しては違ったんだ。君がいなくなることが怖かった。あれだけたくさんの他人の死を見てきたボクがこんなことを思うとは、と驚いたよ。どんな形であれ、生きていてくれてよかった。
だから、そんなこと言わないで欲しい。お願いだ。
君は、いまそこに存在してくれているだけで、十分価値がある。」

最後の方はほとんど懇願だった。
ボクはさっきとは違った理由で動くことができなかった。ボクはココさんにここまで言ってもらう心当たりが全くない。過去のボクと、ココさん達の間には何があったのだろう。
それがわからないボクには何も言うことができなかった。

その後、ボクは「今日は肌寒いですね」「紅茶冷めてしまいましたね」などと実の無い話を少しだけして、ココさんを見送った。




いつもより短いですが、キリが良いのでここで。
この話、他の四天王サイドを書くのもちょっと面白いかもしれないですね。

しかしちっともトリコマしないねぇ…
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