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釦録

萌えメモ的な何か
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アフターダーク③
ずっと書く書く詐欺してた記憶喪失話、でけました!
いや、詐欺じゃないよ、ずっと書いてたんだよ…うん。


【諸注意】
・トリコマです。
・やっぱ薄暗いです。
・長くて自分でも引いた。



それは仕事中の事であったらしい。
レストランの厨房で仕込みの指示を行っていた小松は、急に眉間を抑えて顔をしかめると、タイルの床に倒れ、意識を失ったという。入院していた病室に逆戻りした小松の元に、遠方にハントに出ていたオレはテリーを全速力で走らせて駆けつけた。
病室の前に立つ白衣の男に、オレは詰め寄る。

「なんだよ!小松は、全快したんじゃなかったのかよ!」

「そのはずですが…私たちには分かりかねます。すみません。」

お静かにお願いします、と制止する男の声を無視して、オレは勢いよく扉を開くと小松の枕元へと急いだ。ベッドまでの数メートルの距離すらもどかしい。血の気がなく、シーツに負けないくらい白い顔をした小松に、必死でオレは声をかけた。

「小松…小松…!」

小松の瞼がオレの呼びかけに反応して、ぴくり、と動いた。
ゆっくりと目を開くと、オレの顔を見る。
よかった、大したことないんだな、と言いかけた所で、先に小松が口を開いた。


「すみません…どちらさま、ですか?」


ひざ下の力が抜けて、オレはその場にしゃがみこんだ。
余りの事に声も出なかった。




小松の記憶は、まるでリセットボタンを押したかのように、事故直後の状態まで戻っていた。それ以後、どこぞの神様は、気まぐれに小松の記憶のボタンを押す様になった。

オレは繰り返し、オレを知らない小松に自分の名を教え、ハントに連れ出し、共に飯を食った。忘れられても、何度も、何度も。
それは河原の丸い石を積む行為に似ていた。
どれだけ慎重に積み重ねても、ある程度までいくと全て崩れて無に帰してしまう。
昔からのオレを知る奴らは、オレの辛抱強さに一様に驚いていた。
オレだって驚いていた。こんなにひとつのことに…一人の人間に執着したのは初めてだった。

小松の料理が食えない世界なんて
小松の笑顔が見れない世界なんて
小松がオレの名を呼ばない世界なんて


そんなもの、許さない。


だがやはりどこぞの神様はオレに喧嘩を売っているようで、小松のスイッチを押す頻度を段々と早めていった。
季節が三度巡る頃には、小松の記憶は一日に一度リセットされるようになっていた。




オレの朝は、小松が目覚めるのを枕元で待つことから始まる。

目が覚めた小松は、オレの顔を見ると驚いて大声をあげる。そりゃそうだろう。小松の記憶には2mを越す青い髪の大男なんていないのだ。ひとしきり落ち着かせた後、小松に今に至る経緯と現状を説明する。言葉が足りなくて説明下手だと言われるオレだが、何百回も毎日繰り返していればそれなりに上手くもなる。

説明を聞いて、理解はしたがいまいち納得できていないという顔をした小松に、オレはグルメケースに入ったオゾン草を差し出す。両側から同時に齧ると、小松の目に不思議な光が入る。記憶のどこかにオゾン草の味が引っかかっているようなのだ。
ぎこちなくも「おはようございます、トリコさん」と笑顔で挨拶をくれる。オレも「おう、おはよう」と返す。

その後、台所の脇にあるホワイトボードへと二人で向かう。そこには今日の予定や、人との約束や、届く予定の荷物や、今日の献立について書きこんである。

「これは昨日のお前からのメッセージだ。お前も、何かあったら明日のお前の為にここに書くんだぞ。」

小松らしい小さくて几帳面な文字を一生懸命読みながら、小松はうなずく。
書いた記憶の無い自分の字というのは一体どんな気持ちがするのだろう。オレなら気味が悪いかもしれないが、小松は別に嫌な顔もせず昨日の自分が考えた朝ご飯のメニューを作るために台所へと移動した。オレは後ろをついていって、調理器具や食材の場所を教えてやる。


昼間の予定は日によってまちまちだ。
共に出かけたりハントをする日もあれば、別々に行動する日もあった。

従業員の名前も一日で忘れてしまうような小松には料理長としてレストランを統括することは難しかったが、不思議なことに食材の調理法は忘れずに残っていた。食材の名前すら覚えていないのにも関わらず、身体がそれを覚えているとでもいうように。
一度調理したことのあるものはたとえ特殊調理食材であっても、なぜか調理できてしまうのだ。これが食材の声を聞くという小松の才能なのだろうか。現在の小松はレストラングルメの料理長ではないがたびたび助っ人として呼ばれ、現料理長以上に尊敬されていた。

小松が仕事の日は、オレもふらっとでかけて近場でハントをしたり、ワールドキッチンに顔を出したり、ぬもんちゅがーで呑んだりしていた。
だが、小松が帰宅する頃には必ず帰った。
小松を一人にして不安にさせたくなかった。
知らない人間だらけのこの世界で、今、オレだけが小松の世界にいる。

オレがいないと。
オレが小松の傍にいないと。


オレの方が後になってしまった時は、小松は玄関前で待っていることが多かった。
鍵は渡してあったが、小松からしてみたらここは他人の家も同然だから仕方のないことかもしれない。帰宅するオレに気付くと、小松はほっとしたような笑顔になった。
その顔にえもいわれぬ充足感を覚える。
待っててもらえるのは、いいものだ。


二人で夕食を済ませると、ホワイトボードに並んで明日の予定を書きこみ、献立を考えた。オレが思いつくままに食べたいものを書くと、小松は「むちゃくちゃ言わないでください!」とむくれたが、でもいつも最終的にはオレの希望をほとんど叶えてくれる。
ホワイトボードにはオレの走り書きと小松のまるっこい字が並ぶ。


夜が更けると、オレ達は寝室へと移動した。
目覚めたときの小松が不安がらないように、オレ達は同じベッドで眠ることにしていた。
最初は小さい小松を潰してしまうんじゃないかと心配だったが、今はもう慣れた。

「トリコさん」

小松がオレの方へ向って寝返りを打った。

「なんだ?」

オレも小松の方へ身体を向けたが、小松は下を向いていて顔は見えない。
短い髪の毛が、つむじを中心に渦を巻いているのが見えた。

「ボクが眠ったら、もう次目覚める時にはトリコさんのことを覚えていないんですよね?」

オレは返事をしなかった。だが、この場に置いて無言は何よりの肯定の証だった。
しばらく沈黙が続く。小松が身じろぎすると、シーツの衣擦れの音が響いた。

「トリコさん、ボク、朝が来るのが怖いです。」

小松がぽつりと呟いた。

「ああ、オレも怖いよ。」

オレも静かに呟いた。
予想できなかった返事だったのだろう、小松が勢いよく顔を上げてオレの顔を見たのがわかった。
だが、オレは目線を合わせることをしなかった。

「もしかしたら、明日のお前は、オレの事を受け入れてくれないかもしれない。」

初めてコンビを申し込もうとした時、オレは一回言いかけてやめていた。
二回目はオゾン草を口にするまでと、先延ばしにした。
オレは普段、そんな回りくどいことなんてしない。今思えば、怖かったのだと思う。
小松に拒まれることが。

「もう何百回、お前にコンビを申し込んだのかわからないけれど、いまだに怖いさ。」

いや、最初よりも、今の方が怖いかもしれない。
昔のオレよりも、今のオレの方が絶対小松を大切に思っているけれど、小松の記憶は一日でリセットされる。
積み重ねた想いの重さの差を思うと、虚無と絶望で潰れそうになる。
きっと明日のオレは、今のオレよりも朝が来るのが怖いのだろう。


小松はオレの胸元に顔をうずめると、音を立てずに泣いた。
オレは服を掴まれても、涙で濡らされても、されるがままになっていた。
頭をなでることも、背をさすることも、抱きしめることもしなかった。

やがて小松はそのまま眠りに落ちた。
規則的な寝息を立てる小松を、仰向けに寝かせて布団を肩までかけた。
濡れた顔をぬぐってやる。

よく眠っていることを確かめながら、小松の顔の横に肘をついた。
音をたてないように気をつけたけれども、オレの重みに耐えられず、ベッドはぎしっと軋んだ音を立てた。
ただでさえ年齢よりも幼い小松の顔は眠っていることでさらにあどけなく見えた。

オレは、小松の顔を覗きこむと
頬とも唇の端ともいえない場所に掠めるだけのキスをした。


なあ、小松。

お前は知らなくていいんだ。



オレのこの気持ちについては。



小松を起こさないように注意して、ベッドを抜け出すと照明を消した。
着替えて外に出ると、テリーが待っていた。「今日も頼むな」と声をかけると、柔らかい毛並みをなでてやる。
テリーは鼻を擦り寄せてオレの顔を舐めた。

さて、急がないと。朝が来る前にオゾン草を取って帰らなければならない。
オレはテリーの背にまたがった。


今日もまた、夜が明ける。


「できた!」と言っていますが、実は小松くん視点でもう一話分、後日譚を書く予定であったり、します…
小松くん大好きなカリスマをしばらく書いていたので、ゲスでクズみたいなトリコさんが書きたい反動に今襲われていたりします。あああ

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!
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